第6回進化経済学会学会賞決定のお知らせ

2021年9月24日

進化経済学会賞選考委員会

授賞作品タイトル: 『19世紀前半のドイツ経済思想―ドイツ古典派、ロマン主義、フリードリヒ・リスト』(ミネルヴァ書房, 2020年)

著者名: 原田哲史

https://www.minervashobo.co.jp/book/b509861.html

授賞理由:

原田氏の著書は、19世紀前半のドイツを対象とする経済思想史の研究書である。ドイツ古典派、ドイツ・ロマン主義、フリードリヒ・リストの三つの系統を取り上げて、当時のドイツにおける思想状況を明らかにしている。

ドイツ古典派とロマン主義については、これまでわが国において研究の蓄積が乏しいが、数多くの文献の丹念な検証によって思想の形成と展開の過程を解明した点に、思想史研究上の意義が認められる。くわえて、日本では紹介されていなかった経済思想を紹介し、その関連性を描いたことで、読者が当時のドイツの経済思想を理解することを可能にしている。研究の対象と手法、その成果において、水準の高い研究書であると言える。 本書を貫く視点は、後発資本主義国ドイツの経済思想家が、イギリス古典派経済学とどう格闘したかということである。本書は3つの潮流の格闘の仕方の違いを描いた。ドイツ古典派はイギリス古典派の交換価値の体系に反発して使用価値の経済学を志向した。ロマン主義は共同体の紐帯を保持した中での改革に社会の進化を求めた。リストは、後発段階に特化した政策を主張したが、その段階を脱した暁にはイギリス古典派を受け入れるという体系を作った。この違いを明らかにし、思想の諸潮流の性格を把握できたがゆえに、本書はリストと小林昇のリスト論とを正しく評価しつつ相対化し得たのである。そして、これら後発者の反応の中には、後発なるがゆえに問題の核心を捉え、時代を先取りする要素も含まれていたのであって、例えば、ウィリアム・カップ、都留重人、宮本憲一らの一連の貢献にも見られるように、使用価値の概念は、20世紀後半に、新古典派経済学への反発として再び注目を浴びることになる。このような経済思想の進化をよく描いた本書は、進化経済学の発展に経済思想史の分野で重要な貢献をしたものと言える。

第2回進化経済学会奨励賞決定のお知らせ

2021年9月24日

進化経済学会奨励賞選考委員会

授賞作品タイトル: 『新興国企業の成長戦略―中国自動車産業が語る”持たざる者”の強み』(晃洋書房, 2019年)

著者名: 李澤建

http://www.koyoshobo.co.jp/book/b487999.html

授賞理由

李澤建氏の著書は、中国自動車産業の変遷を描いた実証研究である。自動車産業の研究と新興国企業の研究に影響を与える著作であり、豊富なデータと独自の分析枠組みと概念構成を用い、興味深い分析結果を示している点も優れている。

当該著作によれば、中国では1983〜2000年までの移行期に、「三大・三小・二微」体制が作られ、中外合資を中心として乱立が防がれた。2000〜2010年には、民族系企業が「三大」の傘下に入ったり、バスナンバーで乗用車を売ったりする(「準轎車」)企業行動を取り、参入規制をかいくぐって勃興し、廉価車を中心に成長した。だが、2010年以降になると、廉価車にも三大が参入し、競争状態になった。この競争状態において、民族系企業は依然として上級車では太刀打ちできなかったものの、SUVに活路を見出し、成長した。他社の模倣をしつつも、人材育成や設計開発、サプライヤー網の構築などを通じ、中国の自動車産業の企業が自立していく過程を描いている。 さらに、政府の意図的な政策に対し、「意図せざる効果」としての産業発展がありうるという進化論的なフレームワークが明示的に使われている。したがって、進化経済学会として賞を与えるに相応しい。ただし、対象は中国の自動車産業に限られており、新興国市場とそこで活動する企業全般に対する知見であるとは言い難く、これは今後の研究課題であろう。これらの点を総合的に判断し、奨励賞が相応しいと判断した。