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第1回学会賞授賞決定と授賞理由

進化経済学会会員のみなさま

 有賀会長が9月25日に配信された[evoecojapan_new:00620]で触れられていますように、9月24日に開催された理事会で
第1回学会賞が決定されました。授賞式は来春の大会で行われます。

 理事会に提出した、「選考報告」と「授賞理由(案)」を以下に貼り付けます。
 なお、第2回学会賞の応募要項は来春の京都大学大会時に成立する次期選考委員会から公表される予定です。

                第1回学会賞選考委員会委員長 八木紀一郎

理事会に提出した、「選考報告」と「授賞理由(案)」を以下に貼り付けます。
なお、第2回学会賞の応募要項は来春の京都大学大会時に成立する次期選考委員会から公表される予定です。

第1回学会賞選考委員会委員長 八木紀一郎

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選考報告
2016年9月24日
進化経済学会賞選考委員会
委員: 八木紀一郎(委員長)
藤本隆宏
吉田雅明
植村博恭

本委員会が学会賞選考にあたって検討の対象にしたのは、自薦・他薦による応募6件とEvolutionary and Institutional Economics Reviewに掲載された9点の論文、計15 点であるが、後者のうち1点は応募者の著作であった。
本委員会は、委員会外部の専門家の見解を徴することも含めて、上記対象著作を検討し、本年度の学会賞を、塩沢由典会員に、その著書『リカード貿易問題の最終解決-国際価値論の復権-』(岩波書店、2014年3月刊)に基づいて与えることが適当であるという結論に達した。
以上
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授賞理由
2016年9月24日 進化経済学会賞選考委員会

塩沢由典会員の著書『リカード貿易問題の最終解決-国際価値論の復権-』に第1回進化経済学会学会賞を授賞する理由は、この著作がとりあげている問題の重要性とそれに対する著者の「解決」が経済学の将来の発展に対して有する意義を評価するからである。
この著作は、表題からすると国際経済学というサブディシプリンの1分野で過去の経済学者が論じた問題を再検討した懐古的な著作のように受け取れるかもしれないが、実はその正反対である。
本書は、最終財の貿易を論じるにとどまったリカードに対して中間財(投入財)の貿易を含む「リカード・スラッファ貿易経済」を対象にして問題を現代的に拡張している。それは、産業内・企業内貿易および企業間の生産性の差異を考慮した最近の貿易理論をも包摂できる枠組みである。しかも、本書の主要内容は、生産費にもとづいた価格という古典派(リカード)価値論を放棄することなく、貿易によって結びついた世界における「国際価値」の存在を証明したことにある。この「国際価値」が、貿易財の価格のみならず、それらと各国賃金率の組み合わせであることの意味は重大である。それは国ごとの実質賃金率の差異を基礎づける理論として、国際貿易が各国の賃金率を均等化するという非現実的な「要素価格均等化定!
理」に対する明確なオルターナティブになっているからである。また、価格調整による需要供給の均等化を前提しないことによって、労働力その他資源の不完全雇用を許容するので、失業の発生等の貿易摩擦を分析する可能性を拓いている。
リカードが後にのこした貿易財の価格決定の問題(リカード問題)に対して、貿易をおこなう2国の他国財に対する相互的需要によって答えようとしたJ・S・ミルの「解決」が非現実的なばかりか、古典派価値論を否定し、需要による価格形成を軸にした新古典派的思考に道を拓いたという著者の学史解釈も興味深い。著者の考えに従えば、19世紀においては国内価値論にとどまった古典派価値論は、それを国際価値論と結びつけたこの著作によって現代的に再生したことになるだろう。
 もちろん、この著作は、現実の経済主体の多様な行動を直接記述するものでもなければ、それらの複合として現れる利害対立や進化的なプロセスを取り扱うものでもない。しかし、新古典派的な単純化を拒絶して、多様な技術、国ごとの賃金率の差異、不完全雇用の可能性を取り入れた「国際価値論」を軸にした現代古典派的な理論は、そのような領域の研究と両立可能である。そうしたより現実的なレベルでの研究に対して、本書の「国際価値」論がどのような意義をもちうるかは、今後の経済学の発展のなかで明らかになることであろう。

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