7/9(水)企業・産業の進化研究部会
進化経済学会会員 各位
いつも大変お世話になっております。中央大学の生稲です。
2020年に以来となりますが、7月9日(水)に進化経済学会・部会の「企業・産業の進化研究部会」を開催いたします。
つきましては、下記の通り案内申し上げます。
当日飛び入りでのご参加も大歓迎でございます(参加費無料)。
何卒宜しくお願い申し上げます。
—記—
■日時:7月9日(水) 18:30-21:00
■場所:東京大学ものづくり経営研究センター(MMRC)
東京大学経済学研究科 学術交流棟(小島ホール)5階(中会議室)
地図:https://merc.e.u-tokyo.ac.jp/mmrc/access/index.html
■研究発表
<発表者>
塩沢由典
大阪市立大学[現大阪公立大学]名誉教授
<発表タイトル>
「マーシャルの夢、スラッファの夢、サイモンの夢/藤本『産業競争力』』の完成を祝して」
<発表要旨>
20世紀において経済学と経営学(あるいは組織科学)、会計学とは、相性の良い学問関係ではなかった。その主要な原因は、経済学の根本をなす一般均衡理論が経済主体の完全合理性を前提することにあった。サイモンは、「もし人間の合理性に制限がないならば、経営学は不毛なものになる」(『経営行動』1997, p.322)と指摘している。限定合理性の概念はそのご経済学の世界に浸透したが、それは十分なものではなかった。他方、サイモン自身の合理性の捉え方も心理主義・認知主義に偏り、対象システムが人間行動を助けている側面をほとんど見落としていた。
スラッファは、radical objectivism(急進対象主義)の立場から、人間の主観的行動に依存しないシステム構築を目指した。この立場は、21世紀において、価格と数量の独立を中核とする新しい経済学体系へと結実した。それは、数千万という多数の製品が恒常的に生産・交換されるシステムであり、ポストケインズ派経済学と進化経済学とに新しい基礎付けを提供している(Shiozawa, Morioka and Taniguchi 2019)。後者は、Nelson and Winterによって、ルーテイン行動の集団力学として主題化されたが、依拠すべき価格理論を欠いたため、ルーティンの一つである生産技術の進化が経済成長の中核機構であることまでは理論化できなかった。Shiozawa (2020) A new framework for analyzing technological changeは、新しい価格理論によりこの欠けた連結部分を解明している。
マーシャルの全体系は、『経済学原理』よりはるかに広大なものであり、組織論や産業論をもその一部に含むものであった。その体系は、スラッファが指摘したように、内部に矛盾を含んでいた。そのため20世紀においては、マーシャル体系はワルラス体系に劣後せざるをえなかった。新しい経済学体系は、過程分析という枠組みのもとにマーシャルの夢の実現を可能にした。すなわち、従来の経済学と経営学(ないし組織科学)、会計学、さらには産業論や経済地理学との間に相互補完的でより調和的な関係を可能にしている。藤本『産業競争力』は、新しい関係のさらなる展開への出発点となる。